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利率1%超えの個人向け国債「変動10年」、最適な利用法とは

2025.9.5

長期金利の上昇に伴って個人向け国債「変動10年」(変動金利型10年満期)の魅力が高まってきた。9月4日に募集が始まった10月発行分(第186回債)は利率(税引き前)が1.06%と4カ月ぶりに1%を超えた。元々一般的な債券と異なり元本割れの恐れがないうえ、日銀による利上げ観測がくすぶるような環境下では、長期金利が上がれば連動して利率も上がるという変動金利型のメリットが生きる。積極的に資産を増やすための金融商品ではないが、使途が決まった「減らしてはいけないお金」の置き場などとして利用価値がある。

固定3年、5年より魅力的

 

個人向け国債には固定利付債の「固定3年」、「固定5年」、それに金利が変動する「変動10年」の3種類がある。いずれも最低1万円から1万円単位で、銀行や証券会社、郵便局(ゆうちょ銀行)などで購入できる。9月募集分の適用利率(クーポン)は固定3年が0.93%、固定5年が1.12%と、変動10年以外も大手銀行の定期預金金利などに比べて有利な利回りになっている。

それでも、個人的には償還まで利率が固定している3年、5年よりも、世の中の金利が上昇すれば連動して利率が上がる変動10年の方が魅力的に映る。以下、変動10年の強みと弱みをみてみよう。

強み①元本割れがない 一般的な債券は、市中の金利が上昇すると価格が下落する。金利が上がると新たに発行する債券の利率も上昇するため、新発に比べて利率が相対的に低くなる既存の債券は市場で不人気となって、値段が安くなるからだ。このため債券投資では、金利の上昇局面では価格下落による元本割れのリスクが高まる。

これに対して個人向け国債は3種類とも売り物(中途解約)が出れば国が額面で買い取る仕組みになっており、元本部分の価格は常に変わらず、元本割れの心配がない。同じように個人が買える国債である「新窓販国債」との大きな違いがここにある。

強み②長期金利が上がると利息が増える 変動10年の適用利率は「基準金利(前月の新発10年物国債の利回りとほぼ同じ)×0.66」で決まり、その水準は半年ごとに見直される。例えば2023年2月発行分の適用利率(税引き前)は当初の0.4%から、半年ごとに0.72%、0.75%、0.96%と上昇した。このように、足元のような長期金利の上昇局面では見直しのたびに利率が上がるので、年2回支払われる利息の額も増加する。「固定3年」「固定5年」のような固定利付債は利率が最後まで変わらない。

昨今の金利上昇でネット銀行や地方銀行のネット支店を中心に、1.0%前後の1年物定期預金金利もさほど珍しくはなくなってきた。ただ、多くの場合は新規口座の開設や給与口座への指定、一定の預入金額などが条件になっている。面倒や手間を考えると10年変動の方に分がある。

10年持つ必要はなし、ただし1年半以上は保有を

 

強み③発行後1年経つと現金化できる 償還(元金の返金)までの期間が10年だからといって10年間持ち続ける必要はない。個人向け国債は発行から1年経過すると一定のペナルティーを払えば保有額の一部または全部を途中解約できる。ペナルティーは直前に支払われた2回分の利子(正確には、利払いの時点で20.315%の税金が差し引かれているのでその分を勘案して税引き前利子の0.79685相当)。発行から1年後にペナルティーを払って解約しても元本を割り込むことはない。

変動10年には弱みもある。

弱み①1年間は資金を動かせない 強みの③では1年経てば解約できると説明したが、裏を返せば1年間は何があっても現金化できないということだ。また、1年後には解約できるとしても、ペナルティーで2回分の利子が差し引かれるため、定期預金などより多くの利息を得るためには少なくとも1年半(利払い3回分)以上は保有を続けなければならない。

弱み②インフレには勝てない 10年変動の利率は長期金利が上昇すると連動して上がるが、どんなに頑張っても「基準金利×0.66」という天井は超えられない。3%程度の消費者物価の上昇が続く今の環境下では、利率が年1%超の10年変動で運用しても資産の実質的な価値を維持できない。積極的に資産を増やしたい、資産価値を守りたいという場合は、元本割れのリスクを負って株式で運用する投資信託などを買わなければならない。

弱み③NISAは使えない 当たり前だが、国債を含む債券はNISA(少額投資非課税制度)の対象商品ではないので、NISA口座で個人向け国債は購入できない。個人型確定拠出年金(iDeCo)もしかり。

強みと弱みを点検すると、個人向け国債変動10年の使い道が浮かび上がってくる。

「増やす」には不向き、使途の決まったお金の「置き場所」に

 

最も使い勝手がよさそうなのは、「減らしてはいけないお金」の置き所としてだろう。例えば、5年後に教育資金として使う予定があるお金などだ。運用期間が5年にも満たない場合、リスク資産に投資して運悪く引き出しのタイミングで相場が下落していたら、相場の回復を待つ時間的余裕はないかもしれないし、必要額を確保できなくなる恐れもある。変動10年ならお金が減る心配はなく、逆にわずかだとしてもインフレに連動して資金を増やしていける。

このほか、ポートフォリオ(資産の組み合わせ)を組んで安定的な運用を目指すなら、国内債券の代替として変動10年を組み入れるという方法もある。国内では超低金利の時代が続いて、国内債券は長期にわたってほとんどリターンをもたらせない不稼働資産だった。今後、日銀による利上げがあるなら、国内債券はまたぞろ運用成績が悪化しかねない。

一般の債券と変動10年は同じ債券とはいえ似て非なるものだが、ポートフォリオの足を引っ張りそうな国内債券を敢えて外し、変動10年で低水準ではあるが安定的なプラスリターンを確保するのも悪くない。

余談だが、一時話題になった高齢者向けNISA(プラチナNISA)の検討内容には毎月分配型の投資信託を対象商品に加える案があったようだ。時計の針を巻き戻し、投信の分配金に対する誤解や無理解を再び世の中に広げるような愚はやめるべきで、それよりも高齢者に限っては個人向け国債をNISA口座で買えるようにしてほしい。高齢者には資産の取り崩しよりも、元本確保型の商品に対するニーズの方がよほど大きいからだ。国債の消化は劇的に進むような気がするのだが、いかがだろうか…。

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