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退職一時金の廃止は老後の経済格差を広げるか

2026.4.8

大手製紙会社が今春以降に入社する社員から退職一時金制度を廃止するという。終身雇用がデフォルトだった旧世代からすると「老後の生活はそれで大丈夫なの」と気になるが、転職することにもためらいのない若い人々には、「給与の後払い」などといわれる退職金制度は非合理的な旧弊と映るのかもしれない。それはそれで筋が通っているのだが、何やら危うさも感じてしまう。給与に上乗せされた退職金相当額を誰もが老後生活のためにしっかり運用できるとは限らず、家計管理や運用の巧拙で老後の経済格差が大きく広がってしまいかねないからだ。従業員に対するマネー教育の必要性が一段と高まっている。

退職金はなくなり年金はDCに一本化?

そもそも、退職一時金や退職年金といった退職給付制度を導入している企業は年々減っている。ちょっと古いデータになるが、厚生労働省の2023年版「就労条件総合調査」によると、退職給付制度の導入企業は全体の74.9%で、前回調査の2018年に比べて5.6%減、20年前の2003年比では11.8%、30年前の1993年比では17.1%減っていた。

中途採用の広がりなど雇用や働き方の変化、リクルート対策としての(見かけ上の)手取り給与の上積みなどが背景にあるというのが一般的な解説だ。ただ、導入比率が平成バブル崩壊や金融危機以後に大きく下がっていたのをみると、企業には退職金や年金関連のコスト負担(退職給付債務など)を軽減したいという動機も強く働いていたと思われる。

同じ調査で退職給付制度の内容をみると、年金については、企業が自ら年金資産の運用に責任を負う確定給付企業年金(DB)を導入する企業数は伸び悩み、運用を従業員に丸投げする企業型確定拠出年金(DC)の採用企業が増えている。

企業は従業員の老後のためにお金は出し続けているが、次第に自らの手は動かさなくなっている。一方、従業員は老後資金をどう貯めるかの計画作りから運用に至るまで実務を企業に任されて、負担が重くなっている――。ざっくりまとめれば、これが退職給付制度の近年の傾向だ。今は退職一時金制度の廃止など極端な事例にみえるかもしれないが、この傾向が今後も続けば、いずれ退職一時金は「なし」が当たり前になって、年金は「企業型DC」に一本化、というのが標準的な姿になるような気がする。

いきなり「自助努力・自己責任」では困る

老後資金の準備は「自助努力・自己責任」が原則の時代と言うなら、それはその通りなのだろう。昭和のサラリーマンのように老後資金はすべて会社頼みで、退職金も企業年金も金額はもらって初めて知ったというのでは、今のような「人生90年時代」の長い老後を安心して送れるかどうか、おぼつかない。

それでも、企業には従業員をいきなり自助努力や自己責任の世界に放り出さないでほしいと切に願う。アリとキリギリスの話ではないが、若い社員の誰もが遠い未来をイメージしながら老後のための資金づくりに取り組めるわけではなく、給与に上乗せされた退職金の前払い分を月々の支出に回してしまう人も少なからず出てくるはずだ。資産運用についても、基本の知識を身に付けているかどうかで長期の成果は大きく違ってくる。

企業が老後に向けた資産形成をすべて個々の社員にお任せすればするほど、若手のころのおカネに対する意識と知識の差によって、30年後、40年後にシニアとなった彼らの間に大きな経済格差が生じているに違いない。自助努力と自己責任の時代にも従業員が幸せなリタイアメントを迎えるために、企業におけるマネー教育はこれまで以上に重要になっている。

社員のファイナンシャル・ウェルビーイング後押しを

マネー教育というと近年は資産運用の基礎知識や少額投資非課税制度(NISA)、個人型確定拠出年金(iDeCo)が話題の中心だったが、求められる知識はライフステージによって異なる。若手が対象なら家計や資産市場を取り巻く環境変化、公的年金の機能と限界といった、資産形成の必要性を理解してもらう内容が望ましい。リタイアを控えた50代より上の層向けなら、DCの受け取り方や資産寿命の延ばし方、具体的な運用法と資産の取り崩し方など、より実践的な内容が求められる。

今、企業は人的資本の価値増大を企業価値の向上に結び付ける経営が求められているという。従業員が経済的な不安をできるだけ感じないで仕事に集中できる環境をつくるのもその一環だろう。従業員のファイナンシャル・ウェルビーイング(経済的な不安のない自分らしい生き方)を後押しするのは企業の重要な役割だ。

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