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リスクコントロール型投信、なぜ看板倒れが多い?

2025.7.17

投資信託の中で、運用の初心者や損をするのは絶対イヤだというリスク嫌いの人がつい手を出してしまいがちなのが、「リスクコントロール型」といわれるバランス型投信だ。下落リスクを抑えつつ、安定的なリターンをめざすというのがうたい文句。確かにファンドのコンセプトは魅力的だし、金融機関にとっては売りやすい商品に違いない。しかし現実は、看板倒れのファンドの何と多いことか。よくよく過去の実績などを確認してから買わないと、「一文惜しみの百知らず」となりかねない。

変化対応型か、徹底分散型か

下落リスクの抑制を目的としたファンドが相次ぎ登場したのは2010年代の前半。あらゆる資産が一斉に暴落したリーマン危機(2008年)のとき、伝統的な資産分散ではショックを吸収しきれなかったという苦い経験が生み出した金融商品といえる。要は、数年おきに市場を襲う大きな嵐から投資家を守ろうという趣旨で、「その心意気やよし」とばかり、当時、何度かその手のファンドを新聞で紹介したことがある。もっとも、その後の運用成績をみて、紹介したことについては今も内心忸怩たる思いがある(その一件でファンド評価における運用実績の重要さは身に染みた)。

大半のリスクコントロール型投信に共通するのは、その時々の市場環境に合わせて投資する資産の配分比率を変更するという運用手法だ。相場が荒れてきたら債券やキャッシュの比率を思い切り高めて守りを固め、リスクオンの相場となれば株式に積極的に投資してリターンの獲得をめざす。市場環境の判断は多くの場合、クオンツ(数量的な分析)を使い、その出来不出来が運用成績を左右するようだ。

もう一つ、資産分散の対象を国内外の株式や債券だけでなく、不動産投信(REIT)や金などのコモディティー、ヘッジファンドといった、あらゆる種類の資産に広げるというタイプもある。しかも株式なら国内、先進国、新興国という区分に加えてバリュー、グロース、高配当、低ボラティリティなどといった様々なスタイル別のファンドに分散する。こちらはどんな市場環境のときにどの資産に投資するか、その選択が運用成績に直結する。

後手に回って相場上昇に追随できず

運用成績が振るわず償還してしまったファンドもあるが、今もかなりの残高があるリスクコントロール型は少なくない。主なファンドをみると、確かにリスク水準は低いのだがリターンも小さく、物価上昇率に追いつけないファンドが多い(表参照)。印象としては、企画倒れのファンドが過半を占めている。

なぜそうなるのか。一つは、リスクを抑制するといってもリスク資産を少しでも保有している限り、資産価格が下落するときにはその影響を完全には排除できないからだ。相場が下がれば程度の差こそあれ、基準価額は下落する。

それより大きな理由は、この手の多くのファンドが上げ相場に追随できないことだ。いったん市場の緊張が高まりキャッシュや債券の比率を上げると、今度は相場が上昇に転じてもなかなかリスク資産の比率を元に戻せない。おいしいはずの戻り相場に乗れないばかりか、ようやく株式の比率を上げたころには次の下落相場に見舞われて、再びダメージを被るという悪循環に陥ってしまうファンドもある。

リスク抑制にこだわるあまり、相場に対して後手に回ってしまうのは「機動的な資産配分の変更」を強調するファンドに多い。市場環境を判断するクオンツに欠陥があるのだろうか。これに対して、分散する資産の種類を広げたファンドの方が相対的に運用は安定している。表の例では、マルチアセット・アロケーション・ファンドやコア投資戦略ファンドがそれに当たる。

「リスクなければリターンなし」の原則

リスクコントロール型投信の事例から、どんな教訓を読み取るべきだろうか。それは、リターンはリスクを取った者だけに与えられる果実であるという、資産運用の当たり前の原則だ。例えば年率リスクが3~4%という低リスクの投信を買っても、インフレ率に届かない成果しか得られないケースは多いし、場合によってはマイナスのリターンを甘受しなければならない。リターンを得ようとすれば相応のリスクを取らなければならず、投信を利用するなら一時的な基準価額の下落は当然のことと受け入れなければならない。

ある金融教育の資料で「安定的な資産運用にはリスクコントロール型の投資がよい」という文言を見たことがある。資産運用において長期・積立・分散投資でリスクを抑制するのは確かに有効だと思うが、それとリスクコントロール型投信は多くの場合、イコールではない。

変動率の大きな相場が続き、今後もこの手の投信には一定の関心が集まるかもしれない。購入する前にはよくよく過去の運用実績を点検してほしい。

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