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「金融教育」が企業研修の必須科目である理由

2026.6.2

「私の運用はこのままでいいでしょうか」――。

ある大学のセミナーで資産運用について話した後、ちょっとイケイケ風の女子大生から質問を受けた。今は余裕資金の大半を使って、全世界株式と米国株に連動するインデックス型投資信託を積立投資しているという。

リスク許容度は一に運用期間、二にお金の使い道で決まるというのが私の持論なので、「何年か後に何か使う目的があって積み立てているのですか」と聞いてみた。すると少々意外な答えが返ってきた。

「いいえ、すべて老後のためです。老後のことを考えると不安で不安で…」。

金融リテラシーが足りない!

金融業界に勤める20代後半の男性は、2カ月ほど前に少額投資非課税口座(NISA)で米国株投信の積み立てを始めた。これまで投資経験は皆無だった。

今は日々の相場と資産の増減が気になって仕方がなく、NISA口座の残高を眺めるのがすっかり日課になっている。折からの上昇相場に乗って、運用成績は上々の滑り出し。「こんなに簡単にお金が増えるのだったら、もっと早く始めていればよかった」と満足気だ。

この2人の若者について、皆さんはどんな感想をお持ちになるだろう。

個人的には、前者の大学生についてはもったいない気がする。若くて無限の可能性がある年頃なのだから、のびのびと、もっと自由に自分の可能性を広げるようなチャレンジもしてほしい。将来への強い不安に駆られ、お金に縛られていないか気にかかる。

後者の会社員には危うさを感じてしまう。わずかな成功体験に基づく「資産運用なんて簡単」という思い込みは、いずれリスクを無視した無謀な投機につながっていく恐れがある。そうなれば、仕事に向かうべき集中力はそがれてしまうだろう。

あるいは、株価の変動を気にしてばかりいると、いったん相場が下落トレンドに転じたときに精神的なダメージを受けるのではないか。次第にNISA口座をチェックするのがイヤになり、そのまま下げが続けば積立投資をやめてしまうかもしれない。

どちらも極端な事例だと思われるかもしれないが、二人には共通の問題がある。それは、お金に関する基本的なリテラシーを十分には身に付けていないという点だ。

お金の問題は組織パフォーマンスに直結する

冒頭の大学生なら、資産運用とともに人的資本の価値を高めるための自己投資も検討すべきだし、自助努力による老後準備の前提となる公的・私的年金の知識も必要だ。

そのうえで、目標に向けた資産づくりのロードマップを考え、無理のない形での積立投資を計画し、実行してほしい。

会社員のケースでは、まず資産運用におけるリスクとリターンの関係やリスクとの付き合い方を知り、さらにリスクコントロールの手法である長期・積立・分散投資を学ばなければならない。

資産価格は短期、中期でみれば激しく上下動する。この価格変動リスクを無視した投資はギャンブルと変わらない。一方、長期・積立投資の目的と効用がわかれば、日々の値動きに一喜一憂するのはあまり意味がない、と気付くに違いない。

ここまで書いたエピソードは、学生や若手社員だけの話ではない。企業の現場でも、お金の問題は様々な形で影響を与える。

例えば、いつも赤字家計の心配をしていて集中力が低下している人、相場に振り回されて落ち着きを失っている人、老後の経済不安でモチベーションを維持できない人——などだ。社員のお金の問題は、組織のパフォーマンスの課題にもなる。

人生を安定させる資産運用の考え方

多くの企業は新入社員や若手社員に向けて、企業型確定拠出年金(DC)や自社の退職一時金制度、あるいは個人型DC(iDeCo)に関する説明会を開いているだろう。だが、それが単なる制度や手続きの説明に終始しているケースもありそうだ。

会社として本来、社員に身に付けてもらいたいこと、そして社員も望んでいるのは、人生を安定させる地に足の着いた資産運用の考え方だ。

例えば、国内外の株式、債券や金(ゴールド)などの資産をどのように組み合わせれば、インフレに負けない資産形成ができるのか。あるいは大暴落が起きても心を乱すことなく運用を続けるには、どんな知識と工夫が必要なのか。

資産配分の最適化やリスク管理の方法を学ぶことによって、社員は極端な将来不安からも、過大なリスクを負った投機の熱からも解放されるに違いない。

そしてお金の不安が薄れて健全な資産形成に対する確信が持てたなら、社員の心には余裕が生まれ、仕事への集中力も高まるだろう。

エンゲージメントを高める福利厚生

一昔前なら、資産運用はプライベートな行為で、企業が社員に金融教育を提供するのはお門違いだと考える人が多かったかもしれない。

しかし時代は変わり、退職一時金制度を廃止する動きが広がり、いまでは年金も企業型DCが中心だ。かつて企業の役割だった社員の老後の資金づくりはかなりの部分、社員の手に委ねられている。

金融知識の格差は、退職後に大きな経済格差をもたらしかねない。社員に金融教育を提供するのは、社員に対する責任と考えるべきだ。

さらに、会社が人生の土台づくりともいえる金融教育を提供することは、社員に対して「会社は私たちの人生を本気で応援してくれている」という強いメッセージにもなるだろう。

金融教育は社員のエンゲージメント(貢献意欲)やモチベーションの向上、離職防止、福利厚生の満足度を高めるなど、組織へのリターンにつながっていく。今や研修の必須科目なのだ。

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